富山県林業技術センター研究報告 No.1〜14(1988〜2001)

標題 著者名 号数 ページ 発行年 抄録
ボカスギの幹折れに要する冠雪荷重 嘉戸昭夫,中谷 浩,平 英彰,相浦英春 No.1 1-6 1988 冠雪害を長柱の偏心圧縮による破壊と見なして,幹折れに要する冠雪荷重を立木の耐力から推定した。樹冠に偏心がない場合の立木の耐力(座屈荷重)は樹幹形,材のヤング係数および根系の支持カの3要因から算出される。そこで,冠雪害をうけた25年生のボカスギ林において,被害木18本を対象に3要因を測定して座屈荷重を求め,この値から幹折れを引き起こすのに要した冠雪荷重を計算した。供試木の胸高直径,樹高,材のヤング係数,根元の回転係数の平均値はそれぞれ26.6cm,20.5m,49400kgf/cu,1.43×10-7rad/kg・cmであった。荷重点高を樹冠の重心高(樹高の78%の部位)として求めた冠雪荷重の平均値は486kgfであった。また折損に要する冠雪荷重と偏心量の関係について検討した結果,その荷重は偏心がないときの荷重(座屈荷重)に比べて偏心量が50cmの場合には14%,100cmの場合には26%低下した。
スギカミキリの卵および若齢幼虫の樹内分布に関する若干の知見 西村正史 No.1 7-10 1988 カッターナイフを用いて樹皮を丁寧にできるだけ薄く剥がして行けば,スギカミキリの卵および若齢幼虫を容易に見つけることができた。木あたりの卵および若齢幼虫の固体数は木によって著しく異なり,樹内では根元に近ければ近いほど多くなる傾向が認められた。また,樹内の樹幹表面の卵および若齢幼虫の分布解析から両者の分布パターンは産卵行動を反映していることが示唆された。
ボカスギ人工林の生産力 相浦英春 No.1 11-19 1988 富山県小矢部市北屋敷と氷見市荒館,仏生寺の3林分で,ポカスギ人工林の生産力を調べ,現存量と生長量を相対生長法を用いて推定した。その結果,林分現存量は乾重で北屋敷では幹が75.38ton/ha(材積では222.63m³/ha),枝が8.11ton/ha,葉が28.98ton/ha,荒館では幹が166.27ton/ha(561.95m³/ha),技が12.91ton/ha,葉が31.99ton/ha,仏生寺では幹が208.89ton/ha(674.28m³/ha),枝が17.46ton/ha,菓が31.47ton/haであると推定された。最近一年間の乾重量生長量は,北屋敷では幹が8.74ton/ha.yr(材積では23.95m³/ha.yr),枝が0.80ton/ha.yr,葉が5.22ton/ha.yr,荒館では幹が9.95ton/ha.yr(31.66m³/ha.yr),技が0.85ton/ha.yr,葉が9.42ton/ha.yr,仏生寺では幹が14.05ton/ha.yr(42.59m³/ha.yr),根が1.80ton/ha.yr,葉が6.17ton/ha.yrとなった。
利賀検定林10年間の生長について 八川 久,沢田隆司 No.1 20-24 1988 利賀村検定林(標高800〜870m)において10年生スギ18品種(実生3品種,さし木15品種)の生育状況について検討した。その結果次のようなことが明らかになった。 1)魚津採種園産実生,小原天然林産実生,新潟産実生はそれぞれ生長が良く,さし木品種では栗当さし木,カワイダニが良かった。 2)利賀産のさし木品種の中で栗当は最も生長が良く,酒井スギはほぼ平均値を示した。北田スギは平均値を下回った。 3)樹高,根元径,胸高直径,傾幹幅の大きい品種は枯損率が小さかった。
林木の冠雪害に関する樹木力学的研究(第3報) 強度的性質の樹幹内分布 中谷 浩,嘉戸昭夫,長谷川益夫,相浦英春,飯島泰男 No.1 25-33 1988 冠雪荷重下の樹幹耐力をより正確に推測するには,強度的性質の不均質な樹幹モデルでの検討を進めていく必要がある。そのための基礎的知見を得るために,ポガスギの樹幹をもちい,1.3mから3m間隔で髄より1×1×16cmの試験体を半径方向に連続して採取し,曲げ強度性能の樹幹内変動を検討した。結果はつぎのとおりである。ヤング率,曲げ強度とも髄からの年輪数に伴い増大する。しかし,曲げ強度は比重の影響を受けるためヤング率ほど明確ではない。未成熟材領域のヤング率と髄からの年輪数に関して得られた回帰直線は,初期値,傾きとも高さが増すにつれ大きくなる。したがって,樹幹上部では,早く成熟化すると考えられる。また,未成熟領域の曲げ強度も高さが増すにつれ増大する。樹幹ヤング率は林令10年ぐらいまで高さ方向の差がないが,材の成熟化につれ差を生じ,林令25年では樹高の30〜70%部位は梢端および根元の1.7倍となる。
建築用木質ボード類の耐朽性向上に関する研究(第2報) 小片前処理削片板における各種低毒性防腐剤の効力比較 元木英生 No.1 34-40 1988 各種低毒性防腐剤で処理した木材小片を原料とした建築用削片板を製造したのち,ボード材質への影響と耐朽性を検討した。得られた結果はつぎのとおりである。 1)供試防腐剤のうち,TBTPを除けば,薬剤添加によるボード材質に対する悪影響はほとんど認められなかった。 2)腐朽操作における未処理および防腐処理フレークボードの重量減少率と材質低下率の相関関係は,いずれの供試菌の場合でも材質低下の指標値のうち,剥離強さの方が木ネジ保持力よりも重量減少率との相関が高かった。 3)本実験条件下(原料フレーク前処理,薬剤添加率1kg/m³)においては,両供試薗に対する抗菌スペクトルをカバーできる薬剤として,CMDC/NCH−Al混合物とCIFが有望であった。
原木形状の自動計測(第1報) 画像処理による木口面の寸法計測 坂井正孝,吉田直隆,島崎鶴雄,神子 昭 No.1 41-48 1988 シベリア産針葉樹原木の木口面の最小径を計測するため,画像処理手法を提案した。この処理方法は,樹皮付きおよび樹皮無しの木口面の形状認識に適応できる。この方法を用いて計測し,実測値と比較した。その結果,次のことが明らかとなった。 1)実測値と画像処理による値を回帰分析すると回帰式の傾きは,いずれの計測条件共ほぼ1に近い値が得られ,また,不偏分散の平方根は1.35〜4.58の範囲内であった。 2)寸法計測誤差は,いずれの計測条件共わずかに生じた。
黒部検定林における4産地スギの生長 八川 久,沢田隆司 No.2 1-4 1989 黒部検定林において4産地からのスギ実生苗の10年間の生育状況を検定するため,樹高,胸高直径,傾幹幅,枯損率について調査した。その結果次のようなことが明らかになった。新潟産実生の生長が最も良く,枯損率も低い。魚津採種園産実生は小原母樹林産実生,梨谷母樹林産実生と比較して樹高生長には差はないが,枯損率は小原に次いで高い。梨谷母樹林産実生は他の3産地の苗よりも樹高生長は劣る。傾幹幅は魚津産が最も大きかった。
コナラ萌芽林の生産力 長谷川幹夫 No.2 5-12 1989 富山県氷見市上寺尾,中新川郡立山町吉峰,及び栃津に生育するコナラ萌芽林3林分の現存量と成長量を相対成長法を用いて推定した。その結果,幹材積現存量は氷見で146.77m³/ha,吉峰で192.95m³/ha,栃津で240.12m³/ha,幹の現存量(乾重,以下同じ)は氷見で94.42t/ha,吉峰で126.56t/ha,栃津で160.13t/haであった。枝のそれは氷見で16.73t/ha,吉峰で25.62t/ha,栃津で41.86t/ha,葉のそれは氷見で3.68t/ha,吉峰で5.66t/ha,栃津で4.77t/haであった。調査林分の林齢はいずれも33〜35年であったが,現存量がこのように大きく異なったのは,地位によるところが大きいと考えられた。1年間の林分成長量についてみると,幹の材積成長量は氷見で4.78m³/ha・yr,吉峰で7.95m³/ha・yr,栃津で9.94m³/ha・yr,幹の重量成長量は氷見で3.08t/ha・yr,吉峰で5.22t/ha・yr,栃津で6.69t/ha・yrであった。枝のそれは氷見で0.77t/ha・yr,吉峰で1.25t/ha・yr,栃津で2.69t/ha・yrであった。栃津の重量成長量(地上部計)は14.15t/ha・yrとスギのそれに匹敵する値であった。葉1tあたりの幹重生産効率は氷見で0.84t/t・yr,吉峰で0.92t/t・yr,栃津で1.40t/t・yrであった。
富山県中部における広葉樹二次林の種組成と分布 長谷川幹夫 No.2 13-22 1989 富山県中部に生育する広葉樹二次林の50スタンド(標高160〜880m,適潤土〜乾性土)の種組成関係についてBray−Cartis序列法を使って検討した。その序列は全出現種72種の胸高断面積合計(BA)の相対値(各種のBA/スタンドの全種のBAの合計)から算出した距離行列によって行った。そして第2軸まで決定したところ]軸は立地の乾湿に,Y軸は標高に対応していた。標高の高い乾性土上に生育するスタンド群はミズナラを優占種としていた。以下同様に低標高の乾性土にはコナラを,低標高の適潤土にはクリを,標高との関係は明らかでないが適潤土にはウリハダカエデを優占種とするスタンド群が位置していた。また主な(頻度25%以上)15種について,その座標上での分布特性をつかむことができた。さらに環境要因のカテゴリーから座標値を予測する試みとして数量化T類分析を行ったところ重相関係数として]座標値に対しては0.82,Y座標値に対しては0.86で説明することができた。
材木の冠雪害に関する樹木力学的研究(第4報)被害林分に対する力学的解析の適用性 中谷 浩,嘉戸昭夫,相浦英春 No.2 23-29 1989 林木の冠雪害抵抗性に対する力学的手法の適用性を検討する目的で,現実の被害林分調査を行い健全木と被害木間の樹幹耐力の差異について検討した。被害林分は25年生ポカスギ林分であり,樹幹形状に加えて樹幹のヤング率,根元の回転係数を全ての立木に関して測定した。結果は以下のとおりである。胸高直径,樹高,細りには被害木,健全木間に差は認められなかった。しかし形状比は被害木で高く,有意差が認められる。冠雪荷重を樹冠葉量から松田の推定式により比較した結果,健全木と被害木間に差はなく,全平均では617kgと計算された。樹幹の強度的性質が全林木とも同じであると仮定すると,樹幹の座屈荷重は健全木平均747kgに対し被害木平均は571kgとなった。したがって,座屈荷重に対する冠雪荷重の比は被害木で大きくなり,被害木の雪害抵抗性の低さが力学的手法により明らかにされた。この結果は,力学的手法の適用が冠雪害軽減方法の解明に有効であることを示している。
シベリア産針葉樹材によるドレストランバー製造試験(第4報)敷居,鴨居材における除湿式乾燥法の適用性 島崎鶴雄,武田和正,吉田直隆 No.2 30-37 1989 建築造作用の各種ドレストランバー製造の中で,敷居,鴨居材における除湿式乾燥法の適用性を調べるため,簡易な除湿式(平均含水率18%仕上げ)と,通常の蒸気式(平均含水率15%仕上げ)で乾燥したシベリア産針葉樹平割材を敷居と鴨居に加工し,60日間放置後の含水率変化及び狂いの大きさから,両乾燥法を比較検討した。結果は次のとおりである。1)モルダーによる平割材(40×100mm)の4面同時鉋削において,両乾燥法とも幅の広い材面の削り残し量は,加工前の幅反りの大きさが影響していて,両者に差は見られなかった。2)放置中の縦反り,曲り,ねじれの大きさを,実用的な判定を基準にして比較すると,乾燥法による差はみられなかったが,厚さ(半径方向),幅(接線方向),溝幅の各収縮量は放置後(60日)の含水率減少量との相関が高いので,カラマツのように乾燥後の含水率のバラツキが大きい材には不適であるなど,適用可能な樹種が制限されることが明らかとなった。
富山県の土地利用と森林の分布 石田 仁 No.3 1-9 1990 富山県における森林タイプと土地利用の分布概要を現存植生図と国土数値情報の標高情報を用いて調べた。森林は富山県面積の63%を占めていた。ヤブツバキクラス,ブナクラス,亜高山帯,高山帯の各森林は,主に,それぞれ1〜400m,600〜1600m,1800〜2400m,2400〜3000mの標高域に分布していた。二次林面積は,ヤブツバキクラスの森林の97%,ブナクラスの森林の37%であった。亜高山帯・高山帯に二次林は分布していなかった。各標高帯(200m刻み)ごとの,代償植生の占有面積は,標高が増加するに従い減少した。1800m以上の標高階では,代償植生は分布していなかった。富山県では,標高は森林タイプの分布をよく説明する環境因子の一つであると考えられる。
ヌメリスギタケモドキ菌糸体の培養特性 高畠幸司 No.3 10-16 1990 ヌメリスギタケモドキの菌糸体生長に影響を及ぼす数種の要因について検討した。結果は次のとおりである。 1)菌糸体の生育温度は5〜31.5℃であり,適温は23〜27℃であった。鋸屑培地の好適含水率は60〜80%であり,液体培養の良好な初発pHは5.4〜7.1で,最適な初発pHは6.5前後であった。 2)液体培養(静置)の菌糸体は,培養開始後急速に増加し,培養18日目で最大量に達し,その後漸減した。また,培養液のpHは,菌糸体の増加と共に低下し,菌糸体が最大量になった後,pH5.2〜5.4に収束した。 3)菌糸体の炭素源および窒素源の利用法は,六単糖のマンノースやグルコース,有機態窒素であるペプトンやカザミノ酸で良好であった。 4)無機塩類ではKH2PO4 0.05%,MgSO4・7H2O 0.02%,CaCl2・2H2O 0.01%でそれぞれ最も良好に生長し,また,Zn2+やFe2+で顕著な生長効果が認められた。ビタミン類ではリボフラビン・イノシトール・チアミンの添加で良好な生長を示した。
カラマツアラビノガラクタンの製造(第1報)マグネシアによるアラビノガラクタンの精製 水本克夫,高橋理平 No.3 17-24 1990 本研究では,ソ連カラマツの鋸屑から水抽出で得られた苦み,木材臭を有する黄褐色のアラビノガラクタンを精製することを目的に,マグネシア吸着剤処理,およぴイオン交換樹脂との併用処理による精製効果について検討した。マグネシア処理によって抽出物を十分に脱色するためには,マグネシア添加量は抽出物重量当り5%以上,処理温度70〜100℃,処理時間10〜30分が必要であった。本処理条件によって,抽出物中の着色原因物質であるフェノール性成分の約50%と,金属成分のうち鉄,マンガンはほとんど吸着除去され,収率約90%で,わずかに黄色を帯びたアラビノガラクタンが得られた。しかしながら,フェノール性成分の約半量と吸着剤から溶出したと考えられるマグネシウム,および木材由来のナトリウム,カリウム,カルシウムの金属成分が残った。そこで,イオン交換樹脂処理を併用した結果,収率は約70%に低下したが,フェノール成分の80%以上と金属成分の大部分が除去され,純白,無味無臭で高純度のアラビノガラクタンが得られた。精製アラビノガラクタンの糖組成,重量平均分子量は,無処理のそれと概ね同じであった。
林木の冠雪害に関する樹木力学的研究 中谷 浩 No.4 1-54 1991  
富山県における温量指数と森林分布 石田 仁 No.5 1-8 1991 富山県で,森林の分布と温量指数(暖かさの指数;WI,寒さの指数;CI)の関係について,現存植生図と気候値メッシュファイル(気温ファイル)を用いて検討した。照葉樹林帯(CI-10以上の地域,面積1466ku,県面積の35%),暖帯落葉樹林帯(WI85以上CI-10以下の地域,514ku,12%),温帯落葉樹林帯(WI45から85の地域,1670ku,39%),常緑針葉樹林帯(WI15から45の地域,604ku,14%),高山帯(WI15以下の地域,4ku,1%以下)が存在していた。各森林帯における天然林の面積割合は,照葉樹林帯で13%,暖帯落葉樹林帯で47%,温帯落葉樹林帯で76%,常緑針葉樹林帯で80%であった。照葉樹林帯の天然林のうち,照葉樹林は1%以下で,コナラ群落が90%を占めていた。常緑針葉樹林帯の天然林のうち,常緑針葉樹林は22%にすぎず,ブナ,ダケカンバに特徴付けられる森林植生がが52%を占めていた。照葉樹林と(亜高山)常緑針葉樹林の発達が悪く,暖帯落葉樹林,温帯落葉樹林の発達は良かった。特に,ブナの森林植生は暖帯,常緑針葉樹林帯にまで分布を拡大していた。
ケヤキ人工林の植栽後6生育期間における成長と被害 長谷川幹夫 No.5 9-12 1991 ケヤキ造林の資料を得る目的で1985年6月にケヤキ苗を植栽し,1〜2年ごとに6生育期間について調査を行った。その樹高は植栽の1生育期間後で平均62cmであったものが,6生育期間経過した1990年11月には平均351cmとなっており,順調な生育を示していた。観察されたケヤキの被害としては1986年には幹折れ(被害率32%),1988年にはノウサギによる食害(同39%)と激しいものもあったが,それらの被害のあった固体と無かった固体の6生育期間後の樹高の間に差は無く,幼齢期での被害は,その後の成長にほとんど影響しないと考えられた。
ヌメリスギタケモドキの生育温度 高畠幸司 No.5 13-19 1991 ヌメリスギタケモドキの栽培に関する基礎的な知見を得るため,一・二核菌糸体の伸長生長,分生胞子の発芽,子実体形成におよぼす温度の影響および二核菌糸体の高温・凍結耐性について検討した。二核菌糸体の伸長生長の好適な温度範囲は21〜27℃で,一核菌糸体では18〜24℃であった。一核菌糸体の伸長生長の好適な温度範囲は,二核菌糸体に比べ低温域に移行した。分生胞子発芽の好適な温度範囲は,培養24時間で21〜30℃,培養48および72時間で18〜21℃であり,培養時間が長くなるにつれ低温化する傾向を示した。二核菌糸体は,50℃・24時間,55℃・4時間,60℃・1時間の処理で死滅するのに対し,-30℃・8時間,-25℃・12週間の処理ででも菌糸体の再生が認められた。子実体形成に好適な温度範囲は18〜21℃で,最適温度は18℃であった。子実体収量は,スギ米糠培地でブナ米糠培地の40〜60%にとどまった。
樹皮の土壌改良材としての利用(第1報)野積樹皮の成分経時変化と植物生育に及ぼす影響 田近克司,高野了一,水本克夫,茅原正毅 No.5 20-28 1991 野積樹皮を安価な土壌改良材として利用することを目的に,ソ連材樹皮を高さ50cmに野積し,4年間にわたる樹皮成分の経時変化,植物生育に及ぼす樹皮水抽出物の影響および野積期間と植物生育性との関係について検討した。その結果は次のとおりである。 1)4年間の野積で,樹皮乾物重量は約30%減少し,またC/N比は177から83に低下した。成分中,抽出物が最も大きく変化し,冷水および熱水抽出物ならぴにへキサン,アセトン,メタノールの各抽出物は,いずれも野積1年で急激に減少した。主要3成分のへミセルトース,セルロースおよびリグニンの変化は比較的小さかった。 2)ソ連産カラマツおよびエゾマツ樹皮の冷水および熱水抽出物が植物の生育を阻害することが,野菜種子およびウキクサ,サクラ花粉による幼植物検定で確認された。また,抽出物中の生育阻害物質は主にフェノール成分と推定された。 3)野積樹皮施用による野菜の素焼鉢栽培試験では,1年以上野積した樹皮施用区におけるダイコンの生育性は,樹皮無施用区のそれと同等あるいはそれ以上であった(播種後48日)。また,野積4年区で,施用量20%以下の場合,ダイコン,ホウレンソウとも樹皮無施用区に比べ,苗の全体重が約30%大きくなり,長期野積の効果が現われた(播種後78日)。
木造壁体の実験住宅による断熱防露特性評価 鷺岡 雅 No.5 29-41 1991 通気構造を有する5種の壁体を,躯体木材の含水率,床下環境条件の異なる二つの室を持つ実験住宅北面に施工し,冬季の暖房,加湿,夏季の冷房を行ったときの断熱・防露性能を検討した。その結果,次のことが明らかになった。 1)温度感知開閉型換気口が施された実験住宅の床下温度は,冬季で5〜7℃外気温度よりも高く,夏季は逆に5〜8℃低い値で推移した。 2)試験壁体の熱貫流率は計算によって求めた値と熱流実測から求めた値とで差があり,実測値は計算値に較べて冬季で4〜29%,夏季で2〜41%いずれも小さい値を示した。その誤差は外側通気壁体よりも内側通気壁体で大きく,これは暖かい床下空間から壁内に相当量の熱が流入したためと推察される。 3)外側通気壁体の壁内湿度は,未乾燥な躯体材を使った場合においても内側通気壁体に較べて低めの値で推移しており,通気層による放湿効果が認められた。 4)建築直後の冬季において,未乾燥な躯体材を用いた壁体は全て壁内結露が発生した。一方,乾燥した躯体材を用いた壁体での結露は認められず,その効果が実証された。しかし,一夏経過後の冬季結露発生状況は一変し,建築直後において見られた著しい結露は消失した。夏季の結露(夏型結露)は璧体Bと璧体Dによって発生した。
多雪地におけるヤマブドウのさし木増殖 石田 仁 No.6 1-7 1992 富山県で22クローン(18クローン 春ざし,4クローン 秋ざし)のヤマブドウ(Vitis coignetiae Puliat)のさし木増殖試験(1年間)を行った。いずれのクローンも,さしつけ後のさし穂の葉数は9月に最大となった。最もよく発育したさし穂は,葉数32枚,当年枝長230cmに達した。7月と8月はさし穂の成長の盛んな時期であったが枯死するさし穂も多かった。全さし穂の44%は,少なくとも一度は展葉した。さし穂の発育のピークであった9月の展葉率(展葉していたさし穂の割合)は34%であったが,翌春の得苗率は14%であった。得苗率はクローン間で差が大きく,最大40%,最小0%(5クローン)であった。1991年に高い展葉率で推移したクローンほど,得苗率が高い傾向があった。最大の得苗率を記録したクローンは春ざしを行ったクローンであた。さし穂の展葉の有無と形態(さし穂の直径,長さ,節の数)の間には,明瞭な関係が認められなかった。さしつけ翌春まで生残したさし穂は,直径6〜14mm,長さ100mm以上のものが比較的多かった。今回の調査で得た知見をもとに得苗率を向上させる方法について考慮した。
スギ幼齢林における広葉樹稚樹の発生と分布ミズナラを主とする二次林の伐採跡地における事例 長谷川幹夫 No.6 8-15 1992 3年生のスギ造林地において広葉樹稚樹の発生経過と分布状況を調べた。この造林地の前生樹は尾根上ではスギ(天然生),斜面上部ではミズナラ,斜面下部ではウリハダカエデ等のカエデ類が優占しており,その林齢は約40年であった。スギ幼齢林での広葉樹稚樹は前生樹の伐採から1年後の1986年に発生した個体が最も多く,その前後の年に集中して多かったが1988年に発生した個体はなかった。尾根では稚樹は少なかったが,ミズナラは斜面上部に,ウリハダカエデは下部に集中分布しており,前生樹の樹種の斜面位置による分布の違いと稚樹のそれは一致していた。鳥散布で埋土種子となるキハダはランダム分布であった。稚樹の密度はそれぞれミズナラで5,714本/ha,ウリハダカエデで3,357本/ha,キハダで1,214本/haなどで,17種の高木性広葉樹の稚樹は総計14,000本/ha,樹高30cm以上のもので5,600本/ha生育していた。以上のことは40年生のミズナラを主とする二次林の伐採跡地での天然下種更新の可能性を示唆していた。
ナメコニ核菌糸体からのプロトプラストの作出とその再生 高畠幸司 No.6 16-28 1992 スギに発生していたナメコ子実体を組織分離して得たPn−8系統を供試菌として,ナメコ二核菌糸体のプロトプラストの作出とプロトプラストの菌糸体への復帰におよぼす諸条件について検討した。プロトプラストの作出には,プロトプラスト作出用菌糸体の培養培地の組成と細胞壁溶解酵素の組合せが大きく影響した。プロトプラスト作出の最適条件は次のようになった。プロトプラスト作出用菌糸体の培養培地としてPcMY培地,その期間は3日間,細胞壁溶解酵素の組成は1%ノボザイム234+0.1%キチナーゼ,緩衝液として浸透圧調節剤である0.5Mマンニットを含む50mMマレイン酸−NaOH(pH5.50),酵素反応の時間は3時間となった。これら好適条件を組み合わせることにより5〜6×10(8)個/g(生菌体重)のプロトプラストを得ることができた。浸透圧調節剤と緩衝液の選択によりプロトプラストの再生は大きな影響を受けた。プロトプラスト再生の最適条件は次のようになった。再生培地:GA,SMY,PMY培地,緩衝液:浸透圧調節剤である0.5Mサッカロースを含む50mMリン酸緩衝液(pH6.50〜6.00),プロトプラスト作出用菌糸体の培養期間:3〜4日間,酵素反応時間:3時間。これらの諸条件を組み合わせてプロトプラストを寒天重層法により培養すると接種したプロトプラスト数の14.5%がコロニーとして再生した。
シベリア産カラマツ材水抽出残渣の食用キノコ培地適性 高畠幸司 No.6 29-38 1992 シベリア産カラマツ材水抽出残渣の食用キノコ培地としての適性を検討するために,木粉培地での菌糸体の伸長成長,培地の重量減少率,子実体形成の各試験を行った。カラマツ材水抽出残渣は,エノキタケ,ヒラタケ,ヤナギマツタケの子実体収量に関して,スギ材と同等の収量を示し,スギ材の代替材になりうる。また,無処理のシベリア産カラマツ材も供試した3菌種でスギ材と同等の収量を示した。このことは,カラマツ材水抽出物が食用キノコの菌糸体成長に阻害作用を示さなかったことと符合した。木粉培地での菌糸体の伸長成長,培地の重量減少率の結果と子実体収量の結果は一致しなかった。
木製なだれ予防柵の開発 中谷 浩、長谷川益夫、石田 和人、飯島泰男 No.6 39-49 1992 スギ間伐材の需要開発を目的に,木製なだれ予防柵を開発した。設計に先立ち,県産材の合理的利用と構造物の信頼性の確保を図るために,県産スギ丸太の曲げ試験を実施し,材料を年輪数で等級区分したうえで許容応力度を設定した。設計条件は斜面角度40°,設計積雪深3mである。従来の鋼製柵では横柵型構造で断続的に配置するのが一般的であるが,木製予防柵では縦柵型で連続的に配置することとした。これは積雪荷重を軽減するとともに,一時的な構造物という木製柵の特性に通した簡易な基礎形態とするためである。簡易基礎方式では,縦柵丸太に加わる引き抜き力に対する抵抗が問題となったが,縦柵丸太,補助アングルを基礎丸太に連結することで所用の耐力を確保した。この点については引き抜き実験を行い安全性を確認した。丸太防腐処理(ナフテン酸銅溶液に浸せき),組立を土場で行いクレーンを用いて施工した。工事費は鋼製柵の60%程度に減少するとともに,山村地域に工事費の多くが費やされるという利点も新たに認められた。
針葉樹樹皮フェノール性抽出物を利用した常温硬化型接着剤の製造 高野了一 No.6 50-58 1992 北洋産カラマツ樹皮のメタノール抽出物,県産スギのメタノール抽出物中のエタノール可溶部を原料に用い,常温硬化型接着剤の製造法を検討した。また,樹皮フェノール性抽出物の主要構成成分であるフラバノール類の分子量が接着剤の性質に与える影響を検討した。その結果を要約すれば以下のとおりである。 1)常温硬化型接着剤の調製法は,抽出物を予め樹脂化するよりも,レゾルシノール樹脂と単に混合する簡易な方法が最も良かった。 2)抽出物,レゾルシノール樹脂,パラホルムアルデヒドを重量部で50:50:15部の割合で混合し,pH9に調製した接着剤は,市販のフェノール・レゾルシノール共縮合樹脂接着剤と同等以上の接着力を示した。 3)Sephadex LH-20のカラムクロマトグラフィーで分子量分画したフラバノール類の粘度および接着力を測定した結果,二量体分画部分は多量体分画部分に比べて低粘度で接着力が高かった。したがって,常温硬化性に優れた接着剤を得るためには,高分子量の抽出物を低分子化する方法が有効と考えられた。
スギ品種間における冠雪荷重の比較 嘉戸昭夫,平 英彰 No.7 1-8 1993 この調査の目的は富山県内に植えられている主なスギ品種の冠雪荷重を測定し,比較することである。調査にはボカスギ,タテヤマスギ,マスヤマスギ,リョウワスギ,カワイダニスギおよび座主坊1号の6品種を用いた。単木当りの冠雪荷重はその木の葉量と高い正の相関を示したが,葉量の影響を除いた場合にはいずれの品種間においても有意な差異が認められなかった。またボカスギはタテヤマスギよりも10〜20%葉量が多かったことから,ボカスギの冠雪荷重はタテヤマスギのそれよりも大きくなると推測された。ポカスギがタテヤマスギより耐雪性が小さい一因として,葉量の違いによることが考えられた。
スギカミキリの被害が発生しやすいスギ林の特徴 西村正史,桐林秀雄 No.7 9-14 1993 スギカミキリの被害を受けやすいスギ林の特徴を明らかにするために,富山県下の99箇所でタテヤマスギ実生林分において被害の実態調査を行った。得られたデータは数量化T類によって解析した。その結果,スギカミキリの被害を受けやすい林分は標高が低くて成長のよい林分であった。林齢の増加にともない被害率は高くなって行くが,30年生以上になると少し低下する傾向を示した。
スギ雄花の栽培温度の変動と休眠覚醒について 平 英彰 No.7 15-17 1993 栽培温度の変動によってスギ雄花の休眠覚醒が影響を受けるがどうかを明かにするため,12月上旬にスギ雄花を採取し,6〜20℃,10〜20℃,15〜20℃,20℃の条件下で栽培し雄花の開花状況を調査した。その結果栽培温度の高かった雄花の開花本数が多かったが,栽培中の低温によってもスギ雄花の休眠覚醒は促進されると考えられた。
スギ品種による雄花の有効積算温度と発育限界温度の違い 平 英彰 No.7 18-21 1993 スギ品種によって雄花の開花に必要な有効積算温度と発育限界温度の違いについて検討した。その結果,品種によって有効積算温度及び発育限界温度はかなり異なることが明らかになった。ヤクスギ,ボカスギでは有効積算温度が高く,また,メアサ,北設楽7号では有効積算温度は低いが発育限界温度は高かった。タテヤマスギ,アキタスギ,中国産スギではこれらの品種の中間の値を示した。したがって有効積算温度と発育限界温度を用いてスギ雄花の開花日の予測を行うにあたっては,その地域に生育している品種の有効積算温度と発育限界温度を明らかにしなければならない。
木製なだれ予防柵の開発(第2報)なだれ予防柵への積雪荷重の測定 中谷 浩,長谷川益夫 No.7 22-26 1993 木製なだれ予防柵を広範に普及していくためには,耐久性と構造物の強度に関する信頼性を確立することが重要である。そのためにはなだれ予防柵への積雪荷重を正しく知る必要があるが,積雪荷重を直接的に測定した報告は少ない。そこで,鋼製なだれ予防柵に積雪荷重測定器を取付け3冬季間に亘って測定を行った。積雪荷重測定器は,2個のロードセル上に木材(10×10×80cm)を置き,そこに加わる積雪荷重を検出するものである。結果は以下のとおりである。 1)なだれ予防柵への積雪荷重は,増雪期には積雪深と極めて相関が高い。したがって,設計積雪荷重を積雪深との関係で設定するのは適当と思われる。しかし,融雪期には荷重の変動が激しく,積雪深との関係は明確ではない。 2)なだれ予防柵の中央における積雪荷重は,このなだれ予防柵の設計積雪荷重の半分程度だった。また,予防柵の下部では測定積雪荷重は設計荷重をはるかに上回っていた。積雪荷重の直接測定データを蓄積し,より妥当性の高い設計荷重を検討していく必要があろう。
シベリア産エゾマツ製材工場のレイアウトと生産性 茅原正穀,坂井正孝 No.7 27-48 1993 シベリア産エゾマツ製材工場のレイアウトとその生産性について検討した。レイアウトは稼働日数,製品寸法,帯鋸厚さ,原木寸法および切削必要時間のような数種の設定条件に基づいて行った。得られた結果は次のように要約される。 1)年間原木消費量40,000m³のモデル(標準となる)工場のレイアウトが得られた。 2)シベリア産エゾマツ製材工場の原木消費量の損益分岐点は約31,000m³/年である。 3)製材コストは工程の自動化によってかなり減少できる。
樹皮の土壌改良材としての利用(第2報)農業用高品質広葉樹バーク堆肥の製造 田近克司,高野了一,水口吉則 No.7 49-56 1993 配合条件の異なる4種の広葉樹バーク堆肥(試験区A:樹皮+鶏糞+尿素,B:樹皮+尿素+過りん酸石灰,C:樹皮+籾穀+鶏糞+尿素,D:樹皮+籾穀+尿素+過りん酸石灰)を製造し,配合条件の違いが腐熟化に及ぼす影響と農業利用が可能な高品質堆肥の製造に必要な堆積期間について検討した。その結果は次のとおりである。 1)堆肥の発酵過程は4区とも良好であったが,成分の変化に違いが見られた。pHおよぴECは,化学肥料のみ添加した区よりも鶏糞添加区の方が高く推移する傾向があった。水溶性フェノールは,各区とも1か月間で著しく減少した。C/N比は,各区とも緩やかに減少したが,堆積中期以降,鶏糞添加区よりも化学肥料添加区の方が高く推移した。還元糖割合も,各区とも漸減したが,主原料では樹皮のみに比べ籾穀を添加した方が,また副資材では鶏糞添加よりも化学肥料のみ添加した方が高く推移する傾向があった。 2)4種の堆肥の熟度を総合評価した結果,A区は6か月,BおよびC区は9か月,D区は1年の堆積で,完熟化することがわかった。
廃油加熱処理による高含水樹皮の燃料化 高野了一 No.7 57-60 1993 樹皮は含有水分が高く,燃料価値が低い。本実験では北洋産エゾマツ樹皮を用い,これを廃油で加熱することによって簡易に脱水・乾燥し,高カロリーの燃料に利用する方法を検討した。その結果を要約すれば以下のとおりである。 1)50〜70%の水分を含む樹皮は,約190℃の廃油中で15〜20分間加熱することにより,脱水・乾燥することができた。この時間は,同温度で熱気乾燥した場合の約1/3〜1/4であった。 2)廃油は植物性及び動物性食用油とも使用可能であったが,エンジンオイルは加熱温度の上昇とともに発泡が著しく不適であった。 3)廃油加熱樹皮は20〜30%の油分を含浸しており,発熱量は約5400cal/gで,乾燥樹皮に比べて約700cal/g高かった。 4)廃油加熱樹皮は無処理樹皮に比べて粉砕が容易であった。
雪食崩壊地の緑化に関する研究(第1報)稚樹の活着に関する問題点 長谷川幹夫,相浦英春,嘉戸昭夫,安田 洋 No.8 1-5 1994 多雪山地に発生した表層崩壊地における山腹施工地での木本緑化方法を知ることを目的に,階段上に植栽された稚樹6種(ブナ,ダケカンバ,ヤマハンノキ,オオバヤシャブシ,ヒメヤシャブシ,ミヤマカワラハンノキ)について,植栽後1冬期経過後の活着率と生育状態(活力度)を調べた。活着率はブナで67%と比較的高かったが,その他は22〜32%と低かった。最初の夏の稚樹の活力度は,ミヤマカワラハンノキで2.6,ダケカンバで2.3と高かったが,オオバヤシャブシで1.2と極めて低かった。このように,稚樹の生育状態が悪いのは,暖地で育苗された稚樹が10月下旬に山出しされることで,植栽直後に寒気(−4℃以下)にさらされたためと考えられた。
富山県二次林の主要樹種の資源量(第1報)推定結果 石田  仁 No.8 6-13 1994 現存植生図と現地林分資料(コナラ群落[472ku]=166プロット,ヤマツツジーアカマツ群集[32ku]=14プロット,ブナーミズナラ群落[455ku]=80プロット)を用いて,富山県二次林の主要構成樹種の資源量の推定を行った。胸高直径4cm以上の立木を対象として,各二次林植生ごとに主要樹種の単位面積当たりの本数,胸高断面積合計,材積を算出し,各二次林植生の面積から,県下の二次林全体の資源量を求めた。結果の概要は次のようである。 1)標高600m以下の地帯に主たる分布域を持つコナラ群落とヤマツツジーアカマツ群集では,コナラとアカマツの合計胸高断面積割合が5割以上を占め,林分構成は類似していた。しかし,後者ではアカマツがコナラを上回り,ネジキやソヨゴといった上昇斜面上に多出する樹種の多さが特徴的であった。 2)標高300〜1500mの範囲に主たる分布域を持つブナーミズナラ群落では,ブナとミズナラの合計胸高断面積割合が44%に達していた。 3)県下の二次林全体の立木材積は2200万立米(m³)以下で,その内,コナラ(25%),ミズナラ(20%),ブナ(10%),アカマツ(8%),クリ(7%)の上位五種が7割を占めていた。
東芦見尾根に発生したスギ実生の消長 平 英彰 No.8 14-18 1994 富山県北アルプス北部の東芦見尾根(標高750m〜2050m)に分布するスギ天然林内に発生したスギ実生の消長について13年間測定した。発生したスギ実生は,3年以内にほとんど枯死し,13年間生存した個体は,発生した実生の0.0014%であった。また,虫による喰害や被圧による枯損も認められたが,多くは秋に落葉によって埋没し,冬期間においてそのまま雪によって落葉の下に押しつけられるため,翌春落葉から立ち上がれずに枯死する個体が多かった。標高1660m以上の標高においては,越冬するスギ実生は認められず,この標高がスギの実生更新の限界と考えられた。
スギの梢端折れについて発生の一事例 平 英彰,嘉戸昭夫 No.8 19-23 1994 1984年1月23日午前8時10分頃,杉の樹冠上部におわんをかぶせたような雪魂が発達していた。そして,それが約9日間保持され,2月1日その雪塊がとけて落ちたときに梢端が折れていることが確認された。樹幹上部に異常な雪魂が発達したときの降雪条件は,気温がプラスからマイナスに変化し,その間に約23cmの降雪があった。その後,気温は低温下で推移した。樹幹の変形過程を観察すると,冠雪が発達していく過程で梢端部は着雪によって大きく傾き,傾いた幹にさらに雪が積もって梢端部は下垂し,梢端部についている雪塊と下部の雪塊が融合し,梢端部は折りたたまれるような状態で大きな雪魂の中に埋もれた。その後,低温が続いたため,新雪がしまり雪に変化し,その時の雪の収縮に伴って梢端が折れたものと推定される。
本邦産カラマツ水抽出物の食用きのこ菌糸体成長に及ぼす影響 高畠幸司,水本克夫 No.8 24-31 1994 食用きのこであるヒラタケ,エノキタケ,シイタケの菌糸体成長に及ぼす本邦産(北海道産,長野県産)カラマツ水抽出物の影響を明らかにするために,すでに促進作用が認められているシベリア産カラマツ水抽出物と比較検討したところ,次の結果を得た。(1)シベリア産,本邦産ともに,カラマツ水抽出物の主要構成成分は,アラビノガラクタンであり,糖関連成分においては,産地間で顕著な差は認められなかった。しかし,全フェノール量については,本邦産はシベリア産の約3.5倍の含有量を示した。(2)長野県産のカラマツ水抽出物は,エノキタケに対して1〜2%濃度区で菌糸体伸長量に若干の促進作用を示したが,ヒラタケ,シイタケでは,濃度が高くなるに従い,伸長量は低下した。北海道産では,いずれの菌種に対しても添加量の増加に従い,伸長量は低下した。また,いずれの産地でも濃度が10%を越えると抑制作用を示した。(3)本邦産,シベリア産のいずれのカラマツ水抽出物も添加量が増加するに従い,菌糸体重量は顕著に増加した。1〜3%濃度区では,産地間で添加効果に差は生じなかったが,5%以上の濃度区では,菌種に応じて産地間で差が生じた。特に,ヒラタケではシベリア産,エノキタケではシベリア・長野県産,シイタケでは長野県産が有効であった。
氷見市小滝地内に成立するヒノキ壮齢林に関する調査 相浦英春 No.8 32-42 1994 氷見市小滝地内に成立するヒノキ壮齢林を対象に,現存量,成長量および成育経過について調査を行うとともに,今後の取扱いについての検討を行った。その結果,林分現存量は乾重で,幹が280.96ton/ha(材積で720.12m³/ha),枝が23.99ton/ha,葉が11.47ton/haと推定された。幹現存量密度は,13.64ton/ha・m(34.96m³/ha・m)で,ヒノキ林における理論的最大値にきわめて近く,調査林分は過密状態にあると考えられた。最近一年間の乾重量成長量は,幹が4.61ton/ha・yr(11.82m³/ha・yr),枝が0.54ton/ha・yr,葉が0.23ton/ha・yrとなった。葉の幹生産能率は,0.40ton/ton・yr(1.03m³/ha・yr)で,ヒノキ壮齢林としてはほぼ2等地と判定された。材積成長は,最近10年間に過密の影響でやや低下しているが,樹高成長は頭打ちとなっていない。これらのことから,今後の取扱い方として次の3案が考えられた。(1)全層間伐(択伐)によって適正な密度にし,現在の林分を維持する。(2)下層間伐(択伐)を行い,さらに長伐期の優良林分をめざす。(3)皆伐して再びヒノキの造林を行う。
富山県における在来工法住宅の木材使用実態調査 中谷 浩,大森幹夫 No.8 43-48 1994 県産材あるいは北洋材の需要拡大を図るうえで,木材の最大需要先である住宅における木材の使用実態を把握することが必要である。中心的な工法である在来工法住宅を対象に,富山県内の43軒の住宅について木材の使用量,樹種,寸法,等級を調査した。調査は大工,工務店から必要部材を製材工場に発注する際の「木拾い表」により行った。結果は以下の通りである。 1)床面積1uあたりの木材使用量は0.208m³であり,この値は全国平均よりやや大きい。これは当県が積雪地帯であり,積雪荷重に配慮して経験的に部材寸法が大きいためと考えられる。2)木材総材積に占める構造材の割合は70%,構架材はその内74%を占める。造作朽,下地材は,それぞれ全体の13%,17%を占める。3)国産材,米材,北洋材の使用割合はそれぞれ14%,29%,55%であり,当県では北洋材の使用割合が高い。国産材ははとんどスギであり,また柱としての用途が中心である。北洋材はカラマツ,エゾマツで下地材の79%,構造材でも52%を占めている。
シベリヤ産エゾマツ正角材の乾燥特性(第1報)異なる含水率レベルにおける乾燥特性 橋本彰,長谷川智,島崎鶴雄,坂井正孝,中谷 浩 No.8 49-53 1994 シベリア産エゾマツ正角材を蒸気式乾燥した際,仕上がり含水率をJASに規定されているD25,D20,D15と変えた場合の,各含水率レベルにおける割れ,収縮,曲りなどの乾燥特性を検討した。また,全乾法により求めた含水率と,高周波式含水率計により測定した含水率を比較検討した。その結果,次のことが明らかになった。 1)標準的な乾燥スケジュールで行った結果,初期含水率53.9%の正角材がD25に低下するまで3日,D20まで5日,D15まで8日を要した。 2)割れについては,含水率が低下するに従い,割れ本数,長さおよび発生率が増加した。 3)生材からの収縮率は,D25まで0.19%,D20まで0.52%,D15まで1.17%となり,含水率が低下するに従い増大した。 4)含水率計により測定した含水率は,全乾法で求めた含水率に比較して,概ね低い値を示し,約40%以上では,測定誤差が大きくなる傾向があった。
樹皮抽出物による天然系接着剤の製造(第8報)製造コストの試算 高野 了一 No.8 54-62 1994 樹皮処理量(乾物)を20t/日とし,シベリア産カラマツ樹皮の熱水抽出物を主原料とする接着剤の製造コストを試算した。接着剤は,抽出物と補強剤(ユリア,フェノール,レゾルシノールの各モノマー)を重量比で7:3に混合し調製した。その結果を要約すれば以下のとおりである。 1)熱水抽出液を35%濃度に濃縮し,これに補強剤を混合した抽出物接着剤の製造コストは,一定条件のもとで,ユリア混合系で約140円/kg,フェノール混合系で約160円/kg,レゾルシノール混合系で約330円/kgとなった。 2)全濃縮法は,限外濾過濃縮法に比べて,接着剤価格が20〜50%低く,有利な製造法であった。 3)濃縮液の乾燥粉末化には,接着剤価格として15〜25%増となる。
カラマツアラビノガラクタンの製造(第2報)シベリア産カラマツにおけるアラビノガラクタンの樹幹内変動 水本克夫,高橋理平,田近克司,高野了一 No.8 63-68 1994 ロシアの沿海州ワニノ港から入荷したシベリア産カラマツ(Larix sp.)について,樹幹内における冷水抽出物(これを粗アラビノガラクタンと呼ぶ)の含有率と,それを構成する糖の含量,中性糖組成,ウロン酸量,およびフェノール量の変動を調べた。その結果,次のことが明らかになった。 1)心材における粗アラビガラクタン(以下AGと略記する)含有率は平均10.5%で,辺材の1.8%に比べて顕著に高く,かつ,粗AG中の糖含量は辺材のそれのほぼ2倍の値を示す。また,中性糖組成,分子量分布は単分散性であることから,アラビノガラクタン以外の糖質の混在は少ないものと考えられる。 2)粗AGの含有率は,樹心から心材移行部に向かって増加傾向を示すが,辺材では急減する。粗AG中の全糖量も粗AGと同様の変動を示す。これに対して,フェノール量は心材でほとんど変わらないが,辺材では顕著に増加する。 3)移行部内側の心材外層部は,良質な粗AGが高濃度に蓄積しており,AG原料の最も有利な供給部位となる可能性をもつ。
スギ林におけるスギカミキリによる被害発生機構の解明に関する研究 西村正史 No.9 1-77 1995  
カラマツアラピノガラクタンの製造(第3報)カラマツおよび異樹種鋸屑の冷水抽出物の比較 水本克夫,高橋理平,高野了一 No.9 78-83 1995 カラマツ鋸屑に異樹種の鋸屑が混入すると,カラマツアラビノガラクタンの収率や品質および精製効率に影響を及ぼす可能性がある。そこで,混入の可能性があるシベアリ産エゾマツ,オウシュウアカマツ,北米産ベイマツの各鋸屑の冷水抽出物量およびその成分組成を測定し,シベリア産カラマツのそれと対比考察した。その結果は,以下のようにまとめられる。 1)異樹種鋸屑から得られる冷水抽出物は,1.1〜2.2%であり,カラマツのそれのほぼ1/5以下であった。また,冷水抽出物中に含まれる糖質量は,28.4〜53.0%であり,カラマツの85.6%に比べて少なかった。 2)冷水抽出物中に含まれる着色性全フェノール量は,エゾマツおよびベイマツに多く,20%前後を示した。この量はカラマツの約12および15倍に相当する。 3)異樹種鋸屑の冷水抽出物に含まれる糖質は,木材ヘミセルロース構成糖の6種類のすべてによって構成された。その重量平均分子量は,約100万のポリマーから180のモノマーまで広範囲の分布を示した。このことは,アラビノガラクタン単一成分からなるカラマツとは異なり,異樹種のそれは数種の糖の混合系であることを示唆している。 4)カラマツ鋸屑に異樹種鋸屑がそれぞれ20%混入した場合,アラビノガラクタンの収率は,全量がカラマツ鋸屑の場合の8.7%から約6.5%に低下すると予測された。また,脱色負荷となる着色性全フェノール量は,1.2〜3.2倍に増加すると予測された。
常温横圧縮処理によるスギ表層WPCの製造 藤澤泰士,水本克夫,高野了一 No.9 84-91 1995 スギ辺材から表層WPCを製造するため,横圧縮処理による放射方向からの飽和共重合ポリエステル樹脂の注入を試みた。また硬化処理材の表面物性,曲げ強さ,および耐水性について評価した。結論は以下の通りである。 1)常温横圧縮処理により,ポリエステル樹脂溶液は常温常圧下でスギ辺材の表層に浸透した。 2)適正な樹脂浸透条件は,横圧縮率50%以上,樹脂濃度25%,浸透時間6時間以上であり,この条件下で樹脂は板目面から平均2m以上浸透した。 3)表層のポリエステル樹脂含有率の増加に伴い,加熱圧縮成形した試験片の衝撃強さ,ブリネル硬度および曲げ強度は増加し,吸水厚さ膨潤率は減少した。 4)表面物性を改善するためには,40%以上の圧縮成形が必要と思われた。
富山県で記録された樹木病害と病原菌 小林享夫,赤祖父ト雄 No.9 92-100 1995  
食用担子菌の成育に及ぼすカラマツ水抽出物の影響に関する研究 高畠幸司 No.10 2-53 1997  
照度が異なる林分に植栽したスギ稚樹の消長 平 英彰 No.10 54-58 1997 スギ天然林における更新機構を解明するための研究の一環として,照度の異なる林内に1年生〜3年生苗を植栽し,枯損率,樹高成長,樹幹形態の変化などを調査した。枯損率は,相対照度の低い林分では1年生苗で高く,3年生苗で低くなった。このことから個体が大きくなるほどスギの耐陰性は高くなることが推定された。また,樹高成長は,相対照度の高い林分ほど大きくなる。しかし,個体の小さい1年生苗は他の苗に比べ著しく小さく,個体の大きいほど樹高成長が大きくなる傾向を示した。相対照度が低いと形状比が大きくなり,スギが倒伏しやすい形態に変化していくことが明らかになった。したがって,スギの天然林に一般的に認められる現象,すなわち,スギの密度の高い林分では実生による更新が少なく,伏条による更新が圧倒的に多く,広葉樹が優占する林分においては実生による更新が多くなるのは,今回調査したスギ稚樹の特性によって説明できる。
氷見市針木地内に成立するカワイダニスギ若齢林の生産力と成育経過 相浦英春 No.10 59-68 1997 氷見市針木地内に成立するカワイダニスギ若齢林分を対象に,現存量,成長量,成育経過および垂直分布について調査を行った。林分現存量は乾重で,幹が140.19ton/ha(材積で458.93m³/ha),枝が19.72ton/ha,葉が44.74ton/haと推定された。最近一年間の乾重成長量は,幹が13.88ton/ha・yr(41.71m³/ha・yr),枝が2.29ton/ha・yr,葉が12.03ton/ha・yrとなった。調査時点までは樹高,胸高断面積および幹材積成長量は直線的に増加していた。樹冠長率はおよそ70%で,葉の垂直分布に対してはカイ2乗分布の適合性が高かった。陽樹冠は10m以上に位置し,陽樹冠の葉量はスギ人工林の平均的林分葉量に相当する20ton/haに達した。
氷見市胡桃地内に成立するヒノキ壮齢林の生産力と成育経過 相浦英春 No.10 69-75 1997 氷見市胡桃地内に成立するヒノキ壮齢林を対象に,現存量,成長量および成育経過について調査を行うとともに,今後の取り扱いについての検討を行った。その結果,林分現存量は重量で,幹が285.60ton/ha(材積で676.01m³/ha),枝が20.70ton/ha,葉が12.21ton/haと推定された。最近一年間の重量成長量は,幹が7.03ton/ha・yr(15.52m³/ha・yr),枝が1.13ton/ha・yr,葉が0.48ton/ha・yrとなった。葉の幹生産能率は,0.58ton/ton・yr(1.27m³/ton・yr)で,ヒノキ壮齢林としては1等地に相当すると判定された。幹現存量密度はヒノキ林における理論的最大値に達しており,過密状態にあると考えられた。以上のことから,今後の取り扱い方として,次のような3案が考えられた。(1)皆伐して再造林する。(2)間伐によって密度を適正化する。(3)下層間伐によって長伐期林分と複層林化をめざす。
シベリア産カラマツ三層集成材の曲げ強度性能 長谷川智,井上元康 No.10 76-79 1997 シベリア産カラマツを用いた三層集成材についてラミナおよび試作集成材の曲げ強度性能を検討した結果,つぎのことが明らかとなった。 1)フィンガージョイントにより接合したシベリア産カラマツラミナの曲げヤング係数は154×103kgf/cu,曲げ強度は540kgf/cuであった。 2)三層集成材の曲げヤング係数については,接合ラミナの有無あるいは負荷方向の違いによる明かな差は認められなかった。また,その値は構成するラミナの曲げヤング係数の平均値にほぼ等しかった。 3)内層に接合ラミナを配した集成材の曲げ強度は,無接合ラミナのみで構成した集成材の値とほぼ等しかった。また,三層とも接合ラミナで構成した集成材を積層面に直角方向に負荷した場合が量も曲げ強度は低く,496kgf/cuであった。
樹皮を利用した水稲育苗用培地の開発(第1報) 田近克司,高橋理平,鷺岡 雅,小池 潤,沼田益朗 No.10 80-88 1997 バーク堆肥を利用して,従来の床土に代わる軽量な水稲育苗用培地を開発することを目的に,市販バーク堆肥の育苗用培地適性,および育苗に適したバーク堆肥の製造方法について検討した。結果は以下のとおりである。 1)供試した7種類の市販バーク堆肥について熟度評価した結果,広葉樹バーク堆肥は完熟,針葉樹バーク堆肥および針葉樹・広葉樹混合バーク堆肥は,ほぼ完熟と判定された。堆肥に含まれる可給態無機成分(植物が吸収可能な肥効成分)のうち,カルシウム,カリウム,マグネシウム,リンは含有量が高かったのに対し,窒素,亜鉛,鉄は微量であった。各成分の含有量は,堆肥の種類によって異なり,特にリン,硫黄,マンガン,鉄は試料間で大きな差が認められた。 2)市販堆肥を用いた育苗試験の結果,@苗の生長量が劣る,A葉色が淡い,B葉先が褐変する,C苗全体が黄白化するという問題点があることが明らかになった。苗の生育不良原因として,@は施肥窒素不足,Aは施肥窒素と鉄不足,Bはリン酸過剰,Cは鉄不足とリン酸過剰が考えられた。 3)苗のリン酸過剰障害を防ぐため,化学肥料のみを発酵助材に用い,リン酸添加量を抑制した5種類のバーク堆肥の製造を試みた。その結果,ナラ樹皮堆肥は堆積後6ヶ月で,エゾマツ樹皮堆肥は9ヶ月でほぼ完熟した。堆肥の分解性はナラ>エゾマツ>カラマツの順に高く,腐熟促進に効果的な配合条件は,尿素+過リン酸石灰または尿素+過リン酸石灰+硫酸カリウムの組み合わせであった。 4)15ヶ月間発酵させた育苗用バーク堆肥は,いずれも良好な育苗培地適性を示した。また,堆肥に育苗箱当り窒素2gおよび鉄3g相当の肥料を添加することにより,加工床土とほぼ同等の苗質が得られた。
マンネンタケの子実体形成にともなう子実体およびその構成部位のトリテルペン類含有率の変化 高畠幸司 No.11 1-6 1998 マンネンタケ子実体をピンヘッド期から成熟期までの5段階で採取し,さらにそれら子実体を菌柄部,傘肉部,管孔部に区分して,マンネンタケの子実体形成にともなう子実体およびその構成部位のトリテルペン類含有率の変化を検討した。トリテルペン類含有率は子実体の成育ステージが進展するに従い増加し,成熟期の子実体が最も高くなった。また,子実体構成部位では,管孔部で最も高い含有率を示した。したがって,充分に成熟したマンネンタケ子実体の管孔部を採取すれば,トリテルペン類を効率的に得られるものと考えられる。
富山県における主要なスギ挿し木品種の成長特性と耐雪性 松浦崇遠 No.11 7-19 1998 富山県内に設定された9箇所の次代検定林に植栽されている,在来挿し木品種7クローン,タテヤマスギから選抜した精英樹6クローンに対し,実生のタテヤマスギを対照として,樹高,直径,根元曲がり及び個体の残存率について比較した。その結果,以下に示す知見が得られた。挿し木品種ではボカスギ,カワイダニスギが良好な初期成長を示したが,実生に優る成長を示すクローンは見出されなかった。積雪によって発生する根元曲がりは,ボカスギや実生では大きく,ボカスギ以外の挿し木品種では軽微であった。しかし,最大積雪深が2mを越える植栽地では,根元曲がり抵抗性が高い品種の個体の残存率は,ボカスギや実生に比べて著しく低下した。既存の挿し木品種はその適切な導入によって,根元曲がりの少ない良形木の生産に寄与することが可能である。しかし,品種の成長量と残存率は植栽地によって大きく変動し,積雪量や土壌等の様々な立地条件に適合した品種の選択の重要性が強く示唆された。
シベリア産エゾマツの強度性能(第1報)構造用製材JASに基づく強度等級区分 中谷 浩,坂井正孝,橋本 彰,島崎鶴雄,長谷川智 No.11 20-28 1998 シベリア産エゾマツの構造用材としての用途拡大を目的に,正角,平角材の実大曲げ試験を行い,その曲げ強度性能と構造用製材JASに基づく強度等級区分について検討した。結果は,以下のとおりである。 1)シベリア産エゾマツの曲げ強度性能は,平均でヤング率107.8tf/cu,曲げ強度445.3kgf/cuとなった。強度のばらつきが比較的小さく,強度の下限値は284.5kgf/cuが得られた。したがって,建築基準法施行令に示されるエゾマツの材料強度225kgf/cuを十分に満たす強度を持っており,より高い強度性能評価も可能である。 2)シベリア産エゾマツとして入荷する木材の中にはトドマツが混入していることが多いが,同材の強度性能はエゾマツに比べ劣っており,構造用材としての利用においては区別するのが望ましい。 3)構造用製材JASにしたがって等級区分した場合に得られたシベリア産エゾマツの許容応力度試算値は,既存のエゾマツ許容応力度と比較すると,等級によって異なる値を示しており,安全性あるいは合理的利用の観点からシベリア産エゾマツ独自の許容応力度設定が望ましい。 4)等級格付けを荷重点間および全長での2種類の方法で行い,下限値を求めた。関数法で下限値を計算すると,全体等級による値が,荷重点間等級の値より特に下位等級で大きくなる。しかし,順位法で求めた場合は,両者の差は小さい。 5)機械的等級区分法では,バンド法で下限値を求めるのが望ましい。誤差分散がヤング率に比例すると仮定して帰直線から下限値を計算してもヤング率の高い等級ではバンド法より高めの結果を与える。
富山県産スギ3品種中径材の材質特性(第1報)気乾比重,平均年輪幅,材色,吸水量,注入量 長谷川益夫 No.11 29-34 1998 スギは富山県の最も重要な造林樹種である。このうち,ボカスギ,カワイダニスギ,タテヤマスギの主な3品種中径材について材質特性を調べた。本報では,これらについて辺心材別に,気乾比重,平均年輪幅,材色,吸水量,注入量について試験した結果を報告する。ボカスギとカワイダニスギは,気乾比重が小さく,平均年輪幅は大きい特徴を示した。タテヤマスギは,比重0.38前後の標準的スギの値を示し,平均年輪幅はおおむね6mm以下であった。心材木口面の測色値(L*,a*,b*)は各品種の特徴を比較的よく示し,タテヤマスギの色のばらつきが大きいことが示された。吸水量では,辺心材間の差は,ボカスギが最も大きく,タテヤマスギは最も小さかった。注入量は,ボカスギ心材を除いていずれも平均490kg/m³以上の値を示した。
富山県産スギ円柱加工材の薬剤注入性 栗崎 宏,塚本英子,鷺岡 雅 No.11 35-40 1998 素材の因子が薬剤注入性に及ぼす影響を明らかにするため,スギ円柱加工材の注入性を評価した。乾燥状態(容積重),長さ,および品種の異なる試験材に,タナリスCuAz5%希釈液を加圧注入し,薬剤注入量と辺材部浸潤度を測定した結果,次のことが明らかになった。 1)注入量は,容積重の増加に伴い減少する傾向が認められた。容積重500kg/m³以下の試験材の注入量は約400kg/m³であったが,高容積重材ではその1/2〜1/3に低下した。 2)注入量は短い材ほど高く,1m材は2m材よりも約30%高い値を示した。しかし,高容積重材では,明らかな増加傾向は認められなかった。 3)ボカスギは,タテヤマスギよりも約10%高い注入量が得られた。 4)浸潤度は,容積重の増加に伴い低下するとともにばらつきが増加した。浸潤度最低値は,容積重,および注入量との間に相関が見られた。
樹皮を利用した水稲育苗用培地の開発(第2報)保存方法の検討 田近克司,鷺岡 雅,沼田益朗,田村有希博 No.11 41-46 1998 育苗用バーク堆肥に化学肥料(窒素,カリウム,鉄)を添加し,pH調整した培地を6ケ月間袋詰め保存し,その品質変化と育苗適性を検討した。その結果,次のことが明らかになった。1)培地pHは,硫酸を添加した場合,添加直後に約5まで低下した後はほとんど変化がなかった。また,pH無調整および硫黄華を添加した場合は,1ケ月間でpHが5前後まで大きく低下し,その後は安定した。pHが大さく低下したのは,培地中のアンモニア態窒素の減少と硝酸態窒素の増加によるものと考えられた。EC(電気伝導度)は,堆肥の種類やpH調整条件に関係なく保存期間中ほとんど変化しなかった。全無機態窒素は,硫酸添加培地では,ほとんど変化しなかったのに対し,すべてのpH無調整培地と硫黄華を添加したナラ樹皮堆肥調製培地の場合,3〜6ケ月後に大幅に減少した。これは,アンモニア態窒素の有機化が原因と考えられた。2)6ケ月間保存した培地を用いた水稲育苗試験の結果,無機態窒素が多く残存していた硫酸添加培地および硫黄華添加のエゾマツおよびカラマツ樹皮堆肥調製培地は,苗の生育が良好であった。しかし,無機態窒素の減少が大きかったpH無調整および硫黄華添加のナラ樹皮堆肥調製培地は,苗の生育が抑制され,葉色の黄化も顕著であった。
スギカミキリ成虫の産卵数推定法 西村正史 No.12 1-6 1999 スギカミキリの成虫が後食をしないことに着目し,本種の産卵数を間接的に推定する方法を提案した。この推定法は,成虫の体重の減少量と産卵数との間に非常に高い正の相関があることを利用したものである。産卵数の推定にあたっては,捕獲された時点に成虫の体重とともに上翅長を測定し,さらに脱出後の経過日数にともなう体重の変化率の傾向を把握する必要がある。
シベリア産エゾマツの強度性能(第2報)含水率による曲げ強度性能の変化 中谷 浩,坂井正孝,橋本彰,秦 正徳 No.12 7-14 1999

本報告では,シベリア産エゾマツ正角材の実大曲げ強度性能に及ぼす含水率の影響について検討した。生材時の縦振動ヤング率でマッチングされた10.5cm心持ち正角材3グループ(各45本)を生材,乾燥材(D15,D20)3つの乾燥レベルで曲げ試験に供した。結果は,以下のとおりである。 1)シベリア産エゾマツは,乾燥(D15)によって生材状態より曲げヤング率で平均16%,曲げ強度で平均40%それぞれ増加する。曲げ強度の変化は,ASTMの含水率補正式で得られる値(23%)に比べて極めて大きい値を示した。 2)生材から乾燥させた場合の縦振動ヤング率は,含水率25%から変化し始めた。 3)断面内含水率の不均一分布がヤング率に及ぼす影響は小さいが,曲げ強度については外層の含水率の影響が大きかった。 4)含水率変化による曲げ強度性能の補正式として,ASTM式と同型の次式を得た。 E1/E2=(1.4−0.015MC1)/(1.4−0.015MC2), σ1/σ2 =(2−0.04MC1’)/(2−0.04MC2’), 但し,MC1,MC2:断面平均含水率,MC1’,MC2’:外層含水率,E1,E2:含水率MC1,MC2に対するヤング率,σ1,σ2:含水率MC1’,MC2’に対する曲げ強度。 本式は,含水率25%以下(25%以上の含水率では全て25%に置換する)のシベリア産エゾマツ心持ち正角材に適用する。

フィルム転写による住宅用内装材の開発(第1報)針葉樹材へのフィルム転写技術の確立 藤澤泰士,水本克夫,高野了一 No.12 15-22 1999 富山県産スギ,シベリア産のアカマツ,エゾマツおよびカラマツのフィルム転写適性を平板プレスを用いて検討した。得られた知見を基にロール式転写装置を設計・試作し,フィルム転写木材の適正製造条件を検討した。結果は以下の通りである。 1)スギ辺材をのぞき,転写不良が認められた。 2)転写前に木材表面を加熱処理することにより,これらの転写不良は改善された。 3)ロール式転写装置によるフィルム転写木材の適正な製造条件は,前加熱温度180℃−90秒,転写ロール材質は鉄/硬質ゴム,転写ロール温度140℃,転写速度10m/min,後加熱温度140℃−90秒であった。 4)上記の条件で作製したフィルム転写木材は,フィルム密着性に優れ,JAS特殊合板の特殊壁面の適合基準を満たした。また,無処理材と同程度の光沢度および吸湿性を有した。
光環境が温帯林主要種の更新樹の分布と伸長成長に及ぼす影響 石田 仁 No.13 3-96 2000  
富山県における木材の野外杭試験(第1報)19年間の被害度変化 長谷川益夫 No.13 97-106 2000 シベリア産カラマツ,シベリア産エゾマツ,ベイツガ,スギ,ヒノキアスナロ,ベイヒバ,アピトンの野外杭試験を1980年に開始して19年が経過した。杭の保存処理は,CCA加圧注入処理,浸漬処理3種(CCA,クレオソート油,TBP油剤),無処理の5種類とし,杭の形状はR3×T3×L60cm,設置は地中に長さの半分(30cm)を埋設する方法とした。腐朽菌あるいは虫による被害を,森林総合研究所の被害度評価法(0〜5階級)により,杭の頂部,地際部,底部について1年毎に評価した。結果を以下に示す。 1)被害度と経過年数の関係についてRichards生長関数回帰分析を行った。その結果,被害度の経年変化型は,樹種および保存処理によって異なり,3つの関数型(Mitscherlich型,Mitscherlich−Gompertz型,Gompertz型)に分類できることがわかった。 2)心材無処理杭の耐用年数(平均被害度が2.5に達する年数)は,シベリア産カラマツ,ベイツガ,ヒノキアスナロ,ベイヒバ,アピトンで,それぞれ約8,3,9,12,5年であった。 3)CCA加圧注入処理は,いずれの樹種においても,他の処理と比べて被害度が最も小さかった。一方,CCA浸漬,クレオソート油浸漬,TBP油剤浸漬処理杭の耐用年数は,無処理と比べてわずかな延長しか認められなかった。
地域産材を利用した異樹種積層材の製造と評価 柴 和宏,中谷 浩,鷺岡 雅 No.13 107-113 2000 地域産材(県産スギとシベリア産カラマツ,以下カラマツ)による異樹種積層材の実大強度性能と接着耐久性について検討した。合わせてJAS規格によるスギ集成材を製造し,異樹種積層の効果を確認した。結果は以下のとおりである。 1)JAS規格によるスギ集成材ではE85クラスまでが限度であるのに対し,シベリア産カラマツとスギによる異樹種積層材は,曲げ剛性が向上し,E120クラスまで製造が可能であり,強度的な信頼性も確認された。 2)JAS規格外の低等級スギラミナ(L40,30)を使用しても,最外層にカラマツを配することでE95クラスの曲げ剛性に優れた異樹種積層材の製造が可能であった。 3)異樹種積層材は,めりこみ強さにおいて最外層カラマツラミナの効果が現われたが,めりこみ剛性では内層ラミナの影響が大きいため,カラマツの効果は現われなかった。 4)カラマツースギの接着耐久性は,スギ同士のものと同程度であり,特に顕著な劣化はみられなかった。
無機蛍光体による木材の表面装飾法について 水本克夫,藤澤泰士,塚本英子,高野了一 No.13 114-119 2000 内装材など木質建材の色彩表現は,金属,窯業タイル,或いはプラスチック製品に比べ,カラフルさ,華やかさに欠けている。そこで,ブラウン管,蛍光灯等に多用され,色彩が豊かな無機蛍光体を各種木材表面に処理し,その装飾性および耐光性の評価から,蛍光木材の可能性を検討した。その結果,次のことが明らかになった。木材表面に擦り込まれた無機蛍光体は,各樹種材面の仮道管や道管開孔部に選択的に充填され,ブラック・ライトの照射により鮮やかな蛍光を発した。特に,早晩材の密度差が大きいスギ,シベリア産カラマツ,ラジアータパイン等や道管径の大きい環孔材のコナラ,ケヤキ,タモは,樹種固有の木目模様が蛍光によって強調され,装飾性に優れた蛍光木材となることが分かった。この蛍光木材は,高圧水銀ランプによる長時間の耐光操作後も初期の蛍光輝度をほぼ維持し,蛍光色度は変わらず,耐光性能に優れていた。さらに,可視光域での増白効果および光変色防止効果のあることが明らかになり,本方法による蛍光木材の実用性は高いと判断された。
スギ曲り材を利用したストランドランバーの製造(第1報)ストランドランバーの強度的性質 高橋理平,栗崎 宏,塚本英子,水本克夫 No.13 120-126 2000 スギのストランドを用いて目標比重0.4,0.6,0.8および1.0のストランドランバー(厚さ23mm×幅360mm×長さ390mm)を試作し,それらの強度的性質を調べた。結果は,以下のとおりである。 1)比重の増大につれて強度的性質が向上し,比重が0.6の場合,曲げ強さは839kgf/cu,ヤング係数は116tf/cuであり,主な構造用材の無欠点材と同等あるいはそれ以上の値を示した。 2)比重が0.6以上の場合,肉眼観察による表面性状は平滑であり,また,反り,ねじれ,カップは認められなかった。 3)異方性は,曲げ強さとヤング係数では認められなかったが,5%部分圧縮強さ,部分圧縮比例限度,せん断強さ,はく離強さ,吸湿および吸水膨張率では認められた。 4)圧締方向の吸湿および吸水膨張率が大きいので,寸法安定性を付与する必要がある。
スギ人工林における冠雪害抵抗性の推定とその応用に関する研究 嘉戸昭夫 No.14 1-77 2001  
氷見丘陵におけるスギの生育と主要な立地要因との関係 図子光太郎 No.14 79-87 2001 富山県氷見市明後谷地内の24箇所のスギ林において,立地要因とスギの成長との関係について調査を行った。本調査地におけるスギの生育は概ね良好で,地位指数は平均23.5であった。地位指数を斜面位置別に比較すると,斜面上部は斜面中部より低かったが,斜面中部と下部との間に差は認められなかった。斜面中部・下部では斜面勾配によって地位指数が変化し,急傾斜地で地位指数が低く,緩傾斜地で地位指数が高くなった。この理由として,急傾斜地では側方への水分移動がさかんになり,土壌が乾燥しやすくなること。また,この調査地では,急傾斜地の土壌粘土含量が低く,保水力や土壌の養分供給力が劣ることなどが考えられる。
スギ柱材の実大圧縮性能 中谷 浩,秦 正徳 No.14 89-94 2001 スギ実大柱の圧縮性能を明らかにすることを目的に,105mm角,120mm角柱それぞれ50本の座屈試験(座屈長305cm)を行った。結果は以下のように要約される。1)圧縮最大荷重は105mm柱で平均65.4kN(27.8〜104.5),120mm柱で平均112.7kN(54.7〜197.1)が得られた。最小値と最大値では4倍の違いがあり,ばらつきが大きい。 2)柱の圧縮最大荷重はセッティングの偏りや柱の曲り等の影響を受けており,必ずしも座屈荷重とは言えないが,曲り等の大きな試験体ではサウスウェルの手法を用いて調整するのが効果的と思われる。 3)実測座屈荷重(サウスウェルの方法による調整済み最大荷重)は,オイラー式による計算座屈荷重と高い相関を持ち,105mm角柱ではほぼ一致する結果を与える。しかし,120mm角柱では計算値の90%程度の値を示した。120mm角では細長比が88であることから,塑性座屈となったためと考えられる。 4)最大荷重の中には木質構造設計基準に示される短期許容応力度以下のものも現れてくる。これは試験体に含まれる低ヤング率材が影響していると思われるが、座屈耐力設計手法の検討が必要と思われる。
ベイマツとスギによる異樹種積層材の曲げ強度 長谷川 智,井上元康 No.14 95-99 2001 構造用集成材に多用されているベイマツを外層ラミナに用いた10層構成のスギーベイマツ異樹種積層材の曲げ強度について検討した。その結果は以下のようにまとめられる。 1)ヤング係数が大きいラミナを組合せた積層材ほど曲げ強度(ヤング係数,曲げ強さ)は増加する。 2)積層材の純曲げヤング係数は構成ラミナのヤング係数によりほぼ推定できる。 3)本研究で実施した条件(ラミナ構成,断面寸法,載荷方法)では曲げ負荷時の全たわみ量に占めるせん断付加たわみ量は7.67%となり,せん断変形がみかけの曲げヤング係数に与える影響が大きい。 4)外層ラミナの最外縁には見かけの曲げ強さで評価される値よりもさらに大さな応力が発生し,また,実際のせん断応力は見かけのせん断応力よりやや小さい。

富山県林業技術センター